就活ランキングで出版社躍進で、どうする

 就職人気企業ランキングというものがある。就活支援企業各社が出しているのだが、その一つ、学情の2022年卒を対象にした調査にはいささか驚いた。総合100位の中で、4位に講談社(前年28位)、11位に集英社(同21位)、KADOKAWA16位(同26位)、新潮社62位(同226位)、小学館68位(同148位)が入っている。1位は昨年と同じ伊藤忠商事。調査対象の母数がいまひとつわからないのだが、伊藤忠商事を100ポイントとして、講談社54.72、集英社44.26KADOKAWA35.74、新潮社22.32、小学館20.47の指数という。

 いわば人気投票なので一喜一憂してほしくはない。だが、出版人気が高まっている傾向は確かのようだ。講談社は出版界のリーディングカンパニー、集英社は『鬼滅の刃』が社会現象になるほどメガヒットした。学情は、出版人気を「ステイホームの中、様々な媒体を通して家庭でも楽しめるコンテンツを提供する企業も人気を集めた」などと分析している。

 じつは19年から出版界は好調に転じていた。90年代半ばから本や雑誌の紙媒体が振るわず全国の書店も減り続け長期低迷状態だったのが、19年に上向きになった。コミックなどの電子出版が軌道に乗り紙媒体のマイナスを補ってなお余りある状態になっていたのである。出版社の淘汰が進み、生き残った会社は経営の効率化を図って生産性を上げてきた。いわば打たれ強い。20年の前期はコロナ禍で広告主導型の雑誌は大苦戦し、休刊になったものも少なくない(たとえば、わたしがかつて編集長を務めた『アサヒカメラ』<朝日新聞出版>も2020年7月号で休刊した)が、その後、とくに学校の一斉休校もあり教育系の出版物が伸びて後期に盛り返した。リアル書店は減ってもアマゾンを筆頭にネット書店は好調だ。コロナ禍はむしろ出版界の電子化をさらに後押しするかたちになったともいえる。

就活生のみなさんの機を見るに敏なところには感心させられる。しかし、ここで問題なのは、老舗の御三家である講談社、集英社、小学館はじめ出版社はもともと応募数に比べ採用人数が少ないということである。新聞社や通信社、NHKなどの報道系マスコミの採用倍率が数十倍なら大手出版社は、それより一桁は多い。筆記は通っても何度かの面接で担当者と不幸にして相性が合わないようなことがあれば、そこでアウト。けっこうリスクが高いのである。コミックやファッション誌、小説など、本や雑誌は子どものころから身の回りにあって誰もが親しんできた。出版社はその意味で究極の「BtoCBusiness to Consume)企業:(企業が直接消費者と向き合うタイプの企業)だ。このため「幼いころからマンガに親しんできました。コミックの編集者になって〇〇さんのような作家さんを担当したい」というような志望者が山のようにいる。

コミックが好きだというのは、むろん大切なのだが、「好きだから」ということと、「仕事として続け成果を出すこと」は違うのだ。会社は「好きなことをやらせてくれる」ような、おめでたいところではない。何百何千の中から数人を取るのだから相手も真剣だ。そんな採用担当者に、「こいつは採りたい」「一緒に仕事してみたい」と強く印象つけなくてはいけない。生半可な企業研究、通り一遍のコミックの読み込み、安直な企画案では通らないことを認識し準備をしないといけない。その覚悟と根性と努力ができるかをまず考えてほしい。

 

さらに、「第一志望のこの一社だけ命」は、さきほど書いた通りリスクが大きすぎる。出版社を軸にやたら倍率の高い御三家のような大手だけでなく、関心のある分野に強い中堅やネット系コミック配信など視野を広げて受けるべきだ。出版業界はだいたい3年実務経験を積めば経験者として他社に中途採用できる流動性のある業界だ。中小の出版社できっちり修業できていれば、そこからより条件のよい出版社に転職することだってできるのである。出版社に行きたいをただの夢で終わらせず実現させてほしい。(岩田一平)