NKHディレクター職内定者

 

題「スポーツ」

 

「こんなの何が面白いのだろう」大学一年の頃に部の合宿で初めて山に登った時、私はそう感じた。重い荷物を担いで黙々と登り、山頂に着いたらそそくさと下る。テントでは吐き気がするほど油っぽいカレーを食べ、下山するころには体中汗でベタベタになる。悪くはなかったが、楽しいと感じるための何かが決定的に欠けていると思った。

 私は高校時代テニス部に所属していた。東北大会出場を目指して高校生活の大半をテニスに費やしてきた。スポーツの目標は勝つこと。相手に勝った喜びを励みに、負けた悔しさをバネにすることで地道な練習にも打ち込める。

 ところが、山には勝ち負けがない。プロクライマーに世界ランクがないように、山を登ることにおいて順位付けされることはない。

 スポーツの本質は、強くなることだと私は思う。練習を積み重ねて、最初は出来なかったことができるようになる。試合で実力をぶつけ合うことで、自分の強さを計る。強くなったことを実感したときの快感こそがスポーツの醍醐味のはずだ。順位付けのない山登りにおいて、一体どこで強さを実感できるのか。

 私が山登りの魅力に気づいたのは、リーダーとして初めて東北の沢を登ったときだった。

二泊三日の長い行程を成功させるために綿密な計画を建てて臨んだが、現実の山は私の想定をことごとく裏切った。実際の沢と地形図が一致せず、現在地がわからない。ルートファインディング、タイムマネジメント、天候判断、滝の対処と、一度にやることが多すぎて頭がパンクしそうだった。それでもなんとか無事に登りきったとき、私は「勝った」と思った。

 山登りは、山との勝負なのだ。この難敵は多様な変化球を繰り出し、こちらが油断すれば容赦なく強力なカウンターを放ってくる。

高く険しい相手であればあるほど、燃えてくる。山登りは間違いなくスポーツだった。