俳句とエントリーシート

まだ暑さ残る中、取材で熊本県のある牧場を訪れた。東京ドーム3個分の広さに30頭の牛が放牧されている。牛たちはあばら骨が見える。痩せすぎではないかと思ったら、牧場主は「これが牛本来のすがたです」と言う。穀物入りの配合飼料で太らせた牛の方が人間でいえばメタボ、成人病なのだそうだ。そのスリムな牛が草を咀嚼するのに余念がない。そこで一句。

秋草を食み食み牛の孕みし仔

この句、さる句会に投句することにした。俳句はたった十七字で森羅万象を表現する世界最短の定型詩といわれる。短さゆえに頭をひねらなければならない。

さて、ここからがエントリーシート(ES)の話。マスコミのESの中には、200字で「大学で力を入れたこと書いてください」のような、就活生にしてみればムチャ振りをするところがある。短い。短いのである。多くの就活生が呻吟(しんぎん)する。

ここで最初から200字で書こうとすると失敗しがちだ。これじゃ何も書けないよと思いながら書いたESは、なんだか骨だけの抽象的な内容になっている。どうやら200字、200字……と字数ばかり気になり肝心の中身に意識がいかなくなるからなのか。

どうするかというと、まず質問への回答を長さにこだわらず書けるだけ書いてみる。600字でも800字でもよい。そこから削っていくのである。書ききっているので、自分が何を言いたいかの全体像がわかる。書いた内容で何が大切か、削っても意味が通じるか、表現のダブりがないか、いちばんおいしいところを残すには、どこを取れるかなど考えながら文章を削いでいくのだ。すると結構削れるものなのである。

 

逆に、600字~800字など余裕のある回答枠には別の悩みが生じる。エピソードを入れて具体的に書こうと思うのだが、エピソードが長くなり結論部分になかなかいきつかない。あるいはエピソードを書くだけで力尽き結局何が言いたいかわからないESにお目にかかることもある。こういう時、採用担当者はチッと舌うちして、そのESははねられる。そうならないためには「見出し」を立てることが有効だ。冒頭に【】でくくって、たとえば【ワンゲル部冬合宿で忍耐力】のような内容を一言で表わす見出しだ。読み手をこれからどちらにお連れするかオリエンテーションしてさしあげるのである。見出しは12~13字、固有名詞や数字を入れて具体的にすることをおすすめする。(岩田一平)