毎日新聞に紛れ込んだ朝日の記者

 そういうわけで、瀬下先生のおかげで朝日新聞に入社し、記者になって2年目のことだ。初任地の鳥取支局で遅めの夏休みがもらえ、皇居のお堀端にある毎日新聞に瀬下先生を訪ねた。先生は『サンデー毎日』のデスク。編集部のある出版局に、約束の時間にのこのこと入っていった。そのころはおおらかで朝日も毎日も、けっこう自由にひとが出入りしていた。勝手知ったる毎日のビルである。

 記憶では陽は少し傾いていたと思う。あいさつをし、先生に鳥取土産を渡して、仕事の手がすくのを隅っこの方で待っていた。酒呑みへのお土産なので、粒ウニの瓶詰か、あご竹輪か、豆腐竹輪か、そのあたりだろうが、忘れてしまった。

 そのうち、編集部のある広いフロアの私とは反対側の隅っこあたりが、なんだかざわざわしてきたのである。声が聞こえる。「台湾で旅客機が墜落」「日本人は?」「名簿は出たか」……。編集部員がわさわさ動き出した。そのうち、「ムコウダ・クニコ」という情報が飛び出した。部内はさらに騒然としてきた。

「家に電話してみろ」「留守番電話になってる」「『台湾に旅行していて○○日に帰る』って、言っている」…、あああ。どよめきが起こる。

 その日、1981年8月22日。作家向田邦子さんは、旅行先で乗り合わせた台北発高雄行き遼東航空機の空中爆発で、南方の空に散華した。享年51。改めて調べてみて、いまのぼくより5歳も若く亡くなったのに驚く。事故の発生は午前10時ころだったというが、ぼくの記憶では、『サンデー毎日』編集部の騒然は午後のような気がする。

 いずれにしても、ライバル会社の駆け出し記者は、眼の前で起きている『サンデー毎日』編集部のてんやわんやに呆然としていた。

 「じゃあ、行こうか」

 どれだけ経ったか、瀬下さんの声がかかり、毎日新聞社ビルの地下にある居酒屋に行ったような気がする。取材記者の手配が済めばデスクの手はしばらく空く。

(平)

 

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